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館長室から

静岡大学附属図書館長 澤田 均 澤田 均

(巻頭言)「蜂蜜採りとミツオシエ」

「静岡県大学図書館協議会会報」No.19 (2017. 4)
 本協議会では、昨年12月、「みんなのお悩み解決!今年は「機関リポジトリ」と「学習支援」」をテーマに講演会と実務研修会を開催しました。私自身、尾城孝一さん(東京大学附属図書館)の「機関リポジトリのこれからとJPCOAR」のご講演から、機関リポジトリの背景とこの15年間の歩み、推進委員会の活動、そしてJPCOARによる未来について学ぶことができました。参加された皆さんにも、お役に立ちましたら幸いです。
 さて、開会のご挨拶の中で、静岡大学附属図書館にも悩みがあり、例えば、館内にスズメバチが侵入して・・と申しました。実は、それ以上に厄介な動物が現れました。イノシシの親子です。10月22日の深夜、6頭の子連れで図書館のすぐ近くに出没しました。幸い人的被害もなく、2回の出没騒ぎで終息しました。自然豊かな環境で、自然とのつきあいを実感できるキャンパスであることを再認識したしだいです。
 人と自然のつきあいといえば、昨年、人と野鳥の面白い共生が米科学誌サイエンスに発表されました。蜂蜜採りとノドグロミツオシエ(キツツキ科の1種)の共生を調べたもので、アフリカ・モザンビークで行われた研究です。ヤオ族の集落には代々、蜂蜜採りをしている人がいます。といっても、ミツバチの巣を見つけるのは一苦労。そこで、ミツオシエに巣まで誘導してもらいます。巣は木の上方のくぼみにつくられることが多く、ハチも攻撃的で、ミツオシエは巣の中の蜜蝋にありつけません。蜂蜜採りは木を切り倒して巣を取り出し、火を焚いて煙でハチを抑え、蜂蜜を採り、蜜蠟はミツオシエに残してやります。このように、蜂蜜採りはミツオシエに巣まで誘導してもらい、短い所要時間で蜂蜜を得る、他方、ミツオシエは巣を取り出してもらい、好物の蜜蝋を得る。そんな野鳥との相利共生が形成され、今も続いていることに感銘を受けました。
 この共生の鍵は、人と野鳥のコミュニケーションにあるようです。実験によると、蜂蜜採りが独特の声を出すことで、ミツオシエを呼び寄せ、巣まで誘導してもらう確率が高まり、ミツオシエの方も特有の鳴き声で合図しながら、巣の場所まで最短ルートで誘導するようです。ミツオシエが蜜蝋を食べることは、すでに1588年には知られていました。現在のモザンビークにあった教会での出来事を、ポルトガル人宣教師が書き残しています。ミツオシエが教会内のロウソクを食べに入ってくると。さらに、ミツオシエが鳴きながら木々を飛び移り、ハチの巣まで誘導すること、人が蜂蜜を採った後に残された蜜蝋を食べることも記載しています。このように、文書に記され、保存されることで、貴重な情報が今に伝わる、図書館の役割の重要さを改めて実感しました。
 私は一教員として、農学部の専門科目を担当しています。そこで、この論文をもとにアクティブラーニングの課題を考えてみました。以下、試作品を紹介します。1つ目は、蜂蜜採りとミツオシエのコミュニケーションによる共生を示す方法について。蜂蜜採りの独特の呼び声が有効かどうかを判定するにはどうするか。何かしら工夫を凝らし(ここがポイント!)、ミツオシエが木々を移動するのを蜂蜜採りが追いかけ、その後を研究者が追いかけるという楽しい調査になりそうです。2つ目は、この共生関係が途絶えることなく、続いている理由はどんなことか。いろいろな理由がありそうです。グループ討論向きでしょう。3つ目は、基本的な設問。スプーン1杯の蜂蜜のために、ミツバチはどのくらい働くのか。クローバー蜂蜜なら、何個くらいの花を訪れるか。労働日数は何日くらいか。このヒントは、べルンド・ハインリッチ(井上民二監訳)『マルハナバチの経済学』に書かれています。
 県内の大学図書館の皆さん、蜂蜜採りとミツオシエのように連携し、知恵を出し合い、大学図書館の多様な機能をより一層強化していきましょう。どうぞご協力ください。


(静岡大学附属図書館長 教授 専門分野:応用生態学)

(巻頭言)「植物の本」

図書館通信 : 静岡大学附属図書館報」No.169 (2017. 4)
 新入生の皆さん、ようこそ静岡大学へ。そろそろ学生生活に慣れた頃と思います。今日の図書館利用セミナーをきっかけに、これから大いに図書館を利用してください。2年生以上の皆さんも引き続きよろしく。
 さて、私は植物の生態を研究しています。そこで、これまでに出会った「植物の本」を3冊紹介しましょう。1つ目は堀田 満さんらの『世界有用植物事典』。初めて見たとき、こんなにも多くの植物が利用され、それぞれ長い歴史があることに驚きました。採種・栽培から加工まで何と手間暇がかかり、高度な技を要することか。普段何気なく利用しているものが、どれも長い時間をかけてできたもの、先人の努力の賜物という当たり前のことに気づきました。そういえば、本書の(紙の)原料も植物でした。
 この事典は約1,500ページもありますが、これでも要点の解説にすぎません。1つ1つのディテールを収録しようとすると、何分冊あっても足りないでしょう。新たな情報も蓄積しています。特にゲノム研究の貢献は目覚しい。例えば、日本の畜産を支えるトウモロコシ。本書の7年後(1996年)、遺伝子組換えトウモロコシ(Btコーン)の商業栽培が始まりました。そして現在、ゲノム編集という新たな技術によるワキシーコーンが開発中で、いずれ加工食品の乳化剤や食品以外の用途に使われるようです。一方、古いトウモロコシのゲノムも研究されています。最近、5,300年前の地層から出土したトウモロコシ穂軸のゲノムが一部解読され、当時のトウモロコシがどんな姿かたちであったか、推定されました。このようにトウモロコシのような重要作物では大量の情報が蓄積されていきますが、その一方で、ほとんど利用されなくなった植物は忘れ去られていきます。アントロポセン(人新世)とも呼ばれ、人間活動による変化が急速に起こっている中、そのような植物のことも詳録しておくことは大切な作業でしょう。
 2つ目は盛口 満さんの『植物の描き方-自然観察の技法Ⅲ』。一流の教育者であり、多くの一般向け自然科学書の著者。というより、第1に好奇心が旺盛すぎるナチュラリストと紹介すべきでしょう。そんな著者だからこそできた、植物を深く知るための素敵な本です。植物スケッチの極意を、盛口さんが伝授してくれます。その極意とは、「植物スケッチの基本はウソをつくという点にかかっている。」、「ウソのつき方のポイントは以下の3点である。1.ウソは、はっきりとつく 2.ウソのつき方をうまくする 3.ウソはつきとおす」、「なお、もっとも大事な心がまえは「描きたいものを描く」・・」。なかなか刺激的な文章ですね。この真意は、本書を読んでお確かめください。
 極意だけでなく、内容も刺激的です。例えば、リスはほとんどドングリを好まない、最近のAPG分類体系によると、ウキクサはサトイモ科の仲間、水辺暮らしに特殊化したサトイモがウキクサである・・。どのページも面白いですが、「果物スケッチ」には驚きました。果物がもともと誰に食べられ、種子を散布していたのか。盛口さんはタヌキのため糞(1ヵ所に糞をする習性がある)の中の見なれぬ種子を、南米原産のポポーのものと鑑定します。ポポーの果実は哺乳類散布で、絶滅したメガ・ファウナ(大型動物)が種子を散布していたという説に思いを馳せます。そして、アボガドも絶滅したオオナマケモノが種子散布していた・・と続きます。
 3つ目は岩槻邦男さんの『新・植物とつきあう本』。岩槻さんは著名な植物分類学者で、こどもの周囲にいる大人、父親、母親、祖父母に向けて書かれた本です。将来そうなるであろう皆さんにも有益でしょう。私が本書を読んだきっかけは、四ツ葉のクローバー(シロツメクサ)が出てくるからです。四ツ葉のクローバーは見つかるけれど、四ツ葉のクズ(葛)は見たことがないと。気になって、クズを見かけると観察してみますが、まだ四ツ葉を見たことはありません。こんなことでも結構楽しいものです。
 ビワの木を見かけると、まど・みちおさんの詩の一節を思い浮かべます。「びわは/やさしい きのみだから/だっこ しあって うれている/うすい 虹ある/ろばさんの/お耳みたいな 葉のかげに」。こども向けというより、むしろ日々苦労している大人向けでしょうか。リフレッシュになります。皆さんも1日10分間は自然を見つめながら、大いに勉学に励んでください。図書館がしっかりサポートします。


(巻頭言)「アクティブラーニングとコーヒー」

「静岡県大学図書館協議会会報」No.18 (2016. 4)
 本協議会では昨年12月、「大学図書館における学習支援・研究支援」をテーマに講演会と実務研修会を開催しました。岡部幸佑さん(東京大学図書館)に「学習支援と情報リテラシー」のご講演と、グループワークのご指導をしていただきました。皆さんのご参考になりましたら幸いです。
 ところで、学習支援の推進には教員による一層の働きかけ、アクティブラーニングへの取組みも必要です。例えば、課題を出して授業時間外の学習を促し、次回の授業で提出、または発表してもらう。そういうトレーニングを積み重ね、やがて「自分で魅力的なテーマを立て、解決する」というゴールに到達する。そういう取組みです。
 では、トレーニング用の課題とはどんなものか? 私の試作品をご紹介します。私は普段、農学部で応用生態学を担当していますが、コーヒーを素材に考えてみました。コーヒーは工芸作物の1つで、嗜好品の貿易額では最もメジャーです。静岡との関係で言えば、地元特産のチャと消費をめぐって競合する相手でしょうか。
 コーヒーはジャスミンに似た香りがする白い花を咲かせます。自分の花粉でも受粉できますが、他の個体の花粉で受粉したほうが実をつけやすいようです。さまざまなハチが花粉を運びます。では、どんな方法でこれらのことを確かめたら良いでしょう? 例えば、あなたがキリマンジャロ山麓のコーヒー園で調べるチャンスに恵まれたとして、どうしますか? こんな設問について、グループで考えてもらい、背景、設問、仮説、方法、予想される結果を論理的な文章にしてもらいます。これは、簡単な課題です。しかも、世界的にハチの減少が懸念される中、コーヒーもその影響を受けることに気づきます。ハチを増やす方策にまで展開できます。
 今度は少し難しい課題です。ハチは吸蜜するためにコーヒーの花を訪れますが、その花蜜にはカフェインが含まれます。これは、パラドクスです。カフェインはアルカロイドの1つで、コーヒーを適量飲むと、眠気防止や記憶力向上のような効能があるそうですが、カフェインを取り過ぎると、健康を害します。日本でも、昨年、過剰摂取による死亡事件が発生しました。それなら、ハチにもカフェインは有害では? そんな花は忌避するのでは? そう考えると、なぜハチがコーヒーを訪花するのか、不思議です。そこで、仮説を考えてもらい、検証するための室内実験も計画してもらいます。むろん、ミツバチの訪花行動を調べる室内実験の方法は、授業中に解説しておきます。
 どうですか? 難しそうですね。実は花蜜に含まれるカフェインは、低濃度なのです。ミツバチは低濃度のカフェインを含む花は忌避せず、むしろよく訪れることが分かってきました。適量のカフェインは、ハチの記憶力を高めるようです。植物の方が、カフェインで昆虫の脳に作用して記憶力を高め、同じタイプの花だけを訪れるように仕向けている、カフェイン依存症を引き起こしているかもしれない、そんなアイデアも出されています。
 このような課題をつくる第一歩は、おもしろい素材を入手することです。それには、科学ニュースを紹介するウェブサイトが便利です。私はよく「Phys.org」を利用します。これは、さまざまな分野の最新研究を分かりやすく紹介するサイトで、先述のコーヒーの研究も載りました。昨年暮れには、総会でお世話になった静岡英和学院大学のご近所、日本平動物園も載りました。あのレッサーパンダの脱走騒動です。裏山の孟宗竹にしがみつく「スミレ」の画像が世界中に発信されたのです。そして、動物園スタッフの知恵と努力、警察犬との連携プレーに拍手が送られました。
 私たちもこのように連携し、知恵を出し合い、大学図書館の学習支援機能をより一層高めていきましょう。県内の大学図書館の皆さん、どうぞご協力ください。


(静岡大学附属図書館長 教授 専門分野:応用生態学)  

(巻頭言)「図書館と出会い」

図書館通信 : 静岡大学附属図書館報」No.168 (2016. 4)
 新入生の皆さん、ようこそ静岡大学へ。といっても、この冊子を5月以降に受け取った人も多いと思います。ユリノキの花咲くキャンパスで学生生活にすっかり慣れた頃合いかもしれませんね。この間、皆さんは図書館をどのくらい訪れましたか? 今日の図書館利用セミナーで初めてという人、これからぜひ利用してください。2年生以上の皆さんも引き続きよろしく。
 学生時代は時間を自由に使え、ハードな読書ができる貴重な期間です。若いときの頭脳は吸収力も高く、鍛えがいがあります。在学中、多くの良書と出会い、成長の糧とされるよう願っています。読書にはよく3つの読書があると言います。人生について学び考えるための読書、仕事のための読書、そして楽しみの読書です。阿部謹也さんの『読書力をつける』を読むと、人生を考えるための読書とはどんなことかよく分かります。仕事のための読書といえば、皆さんの場合は学業が仕事ですから、普段の勉学のことですね。おもしろいと思えるようになると楽しいものですが、その境地に達しないと味気ないもの。リフレッシュも必要でしょう。そこで、楽しみの読書となりますが、大学図書館は一般書が手薄です。そちらは市内の公共図書館を利用してください。
 皆さんは、これまでどんなふうに本と出会ってきましたか? アマゾンのようなウェブサイトで? 書店や図書館で? 誰かに薦められて? 新聞の書評も、好みの新刊本を見つけるのに便利ですよ。主要な新聞は日曜日に書評が載りますので、勉強の合間に新聞コーナー(静岡本館は4階)で読んでみてください。私も過日、野矢茂樹さんの『哲学な日々-考えさせない時代に抗して』を見つけ、哲学のこと、論理のこと、座禅ゼミのことを楽しく読みました。特におもしろかったのは「案外ダメな授業」。このくだりを読んだ翌日の授業で、思わずライブ感と思考のプロセスを出したくなりました。論理的な文章や日本語の技術の反復練習など、皆さんが読んでも役立つ内容満載ですので、ぜひご一読を。野矢さんは「この本で私は、どういう衣装を着て読者の前に立つのか。もちろん哲学者という服も大学教師という服も着る。<中略>しかし、仕事着ばかりではなく、普段着でも登場する。さらには、本来無一物とか言って素っ裸で現われもする。迷惑、かな。やっぱり。」とまえがきしていますが、ちゃんと穿いていますので、ご安心ください。『新版論理トレーニング』もお薦めです。
 新聞コーナーには各紙とりそろえています。私も、ときどき日本経済新聞を見ます。実は昨年、文化面で思いがけない再会をしました。それは、井上史雄さんの「現代ことば考」というコラムを読んでいて・・・。どこかで聞いたお名前、方言のご研究も微かに記憶していました。何と、大学1年生のとき、井上先生(ここから先生とお呼びします)の講義を受けていたのです。あれから40年、紙面で再びお目にかかれるとは。少し調べてみると、静岡でも新方言「じゃん」の調査をされていました。
 「じゃん」といえば、横浜発祥と思っていましたが、静岡の方が古いそうです。そういえば、地元の年配女性が「じゃん」と使うのを耳にしたことがあります。そもそも100年以上前に山梨で始まり、大正・昭和に静岡に広がり、沿岸伝いに横浜に広がったのだそうです。先生は今、若い人が使う「じゃね」に注目され、100年後も使われているか確かめられないのが残念とのこと。皆さんも、このように図書館で先生方と再会できるかもしれませんよ。井上先生は、「アメーラトマト」や特別栽培米「やら米か」のような方言グッズも多数収集されているそうです。
 静岡大学のビジョン「自由啓発・未来創生」には、土地の言葉「やらまいか」のスピリットも込められています。図書館がしっかりとサポートしますので、新しいことに挑戦できるよう準備を怠らず、精一杯学問に励んでください。

(巻頭言)「大学図書館と学習支援機能」

「静岡県大学図書館協議会会報」No.17 (2015. 4)
 静岡大学図書館では、昨年10月に浜松分館の大規模改修を終え、浜松分館(Students’ PORT)としてリニューアルオープンしました。そのコンセプトは「学生たちの<港>」、プレゼンルームやグループワークエリア、Graduates’ Hubを新設し、グループ学習や協同作業ができるように整備しました。活気ある<港>のように、新たな知識や人と出会い、大いに成長し、社会に巣立っていくようにと、心より願っています。先行して改修した静岡本館(Learning Park)とともに、学習支援の環境を整備したところです。
 とはいえ、図書館の学習支援の充実に着手したばかり、まだスタートラインに立ったところです。この機能を実質的かつ持続的に強化するには、さまざまなアイデアを試行・導入していく必要があるでしょう。たとえば、お茶の水女子大学のLiSAプログラムは魅力的に見えます。これは、学生と図書館員の協働による図書館活性化のための活動のこと、そのブログによると、大きな効果を上げているようです。さらに、同大学を含む多くの大学図書館でラーニング・アドバイザーを設置し始めています。このように、他の大学図書館の事例も参考にしながら、知恵を絞っていきたいと考えています。
 アクティブ・ラーニングには、このような整備だけでなく、教員一人ひとりの授業改善が必要です。名古屋大学の『ティップス先生からの7つの提案-教員編』のように、学生の予習・復習を促し、主体的に学習させる、学生間で協同して学習させるような取組みが大切でしょう。私は、農学部の専門科目を担当していますが、予習用の宿題を出しています。たとえば、遺伝子組換えトウモロコシとオオカバマダラ(チョウの1種)をめぐる演習問題。遺伝子組換えトウモロコシは家畜の飼料用に輸入され、清水港でも荷揚げされています。そんな身近な作物と、北米とメキシコの間を大移動する魅力的なチョウをとおして、農業テクノロジーと生物多様性について考えてもらいます。ネイチャー誌に掲載された論文から作題した演習問題ですが、これをきっかけに、私は自宅でアオスジアゲハを飼育し、オオカバマダラ幼虫を調べた研究を身近に感じました。
 このような作題にも、お手本となる実践例や参考文献が必要です。私もさまざまな本、論文、ウェブサイトを手本にしてきました。最近の欧文テキストには、学習支援用ウェブサイトが充実しているものも見かけます。たとえば、Cainら(2014)『Ecology (3rd ed.)』では、各章に問題解決型の演習問題があり、温暖化問題と関連するトピックスが載っています。これを今シーズンの授業に取り入れようと、思案しているところです。このように、1つの授業をとっても、他者の知識・知恵を拝借し、自分の現場に合うように改良を加えるものです。
 静岡大学では柱のひとつに地域貢献を掲げています。最大の地域貢献は、丁寧に教育してローカルに活躍できる優秀な学生を育てることです。そこで、学習支援の環境を整備してきました。その効果が十分に発揮されるよう、これから知恵を絞っていく所存です。静岡県内の大学図書館の皆さん、どうかご協力ください。

(静岡大学附属図書館長 教授 専門分野:応用生態学)  

(巻頭言) 勉強の合間も『図書』

図書館通信 : 静岡大学附属図書館報」No.167 (2015. 4)
 新しくメンバーになられた新入生・大学院生の皆さん、ようこそ静岡大学へ。皆さんがこの冊子を手にするのは、4月上旬のガイダンスの頃と思います。たくさんの資料を受け取り、くらくらしたことでしょう。とはいえ、最初の1週間で慣れるもの。その後、落ち着いたら、ぜひ早めに図書館を訪れてください。静岡キャンパスで学ぶ皆さんには、キャンパスの真ん中、気持ちの良い広場に面した図書館(Learning Park)が、浜松キャンパスで学ぶ皆さんには、Students’ PORT構想のもとに昨年10月リニューアルオープンしたばかりの浜松分館が待っています。浜松分館のコンセプトは「学生たちの<港>」、活気ある<港>のように新たな知識や人と出会い、大いに成長するようにと願って整備しました。グループ学習や協同作業ができるように、プレゼンルームやグループワークエリア、大型プロジェクタを備えたセミナールーム・CALL教室も設けてあります。文字どおり皆さん一人ひとりの<母港>となることでしょう。
 在学生の皆さんも、引き続き図書館を大いに利用してください。上級生・大学院生は各研究室に貸出中の専門書や電子リソースを利用することが多いことでしょう。これらも含め、図書館を使いこなしてください。昨年、ノンフィクション作家高橋秀実さんの『ご先祖様はどちら様』という小林秀雄賞受賞作の文庫版が出ました。横浜市生まれの著者が図書館や役所を利用しながら、自分のルーツ探しの旅に出るという内容です。母方のルーツを探して静岡市清水区小島町も訪れます。旅の途中でさまざまな疑問を抱き、それらについて考え、やがて人と人の縁の広がりを実感していくことになります。著者のような「図書館の達人」になりたいものです。

 さて、ここからは図書館を初めて利用する皆さんに向けて書きましょう。大事なものは、学生証です。静岡本館では4階入口のリーダーに学生証をタッチすれば入館できます。すぐ左手がカウンターで、図書館員(ライブラリアン)の方々が仕事をしています。分からないことや困ったことは、気軽に尋ねてください。4階にはPCワークエリアや参考図書エリア、国際交流エリアのほか、新聞コーナー、視聴覚ブースがあります。次に5階に上がってみましょう。そこは図書館の核心部。たくさんの開架図書と、見晴らしが良く(海が見える)快適な閲覧席があります。試験対応期ともなれば、大勢の利用者で混雑します。5階の奥に進むと、ハーベストルームというラーニング・コモンズのスペース。グループで存分に議論し、協同作業することができます。さらに6階に上がると、セミナールームが3室用意されています。
 皆さんが新入生セミナー(前学期に開講)の中で「図書館利用セミナー」を受講するのは、このセミナールームです。この授業で、図書館の利用方法をしっかり身に付けましょう。授業時間の制約等から現在はやむを得ず割愛していますが、かつては1階から3階にある書庫を見学してもらったこともあります。この書庫こそ、図書館の真の核心部だからです。静岡本館だけで約94万冊の図書を所蔵していますが、その多くがこの書庫に保管され、いずれ誰かと出会う日を待ち続けています。私もかつて1冊の本に出会ったことがあります。それは、ふと思いついたアイデアが妥当なものかどうか見当をつけようと、イネ科植物の花粉1個の大きさを調べた文献を探していたときのこと。なかなか見つからず諦めかけていたとき、幾瀬マサさんの『日本植物の花粉』という書名が目に飛び込んできました。私の生まれた年に出版された本ですが、中を見ると、イネ科植物78種の花粉の大きさが載っているではありませんか。おかげで、アイデアに見込みのあることが分かりました。このように本と出会うものなのですね。

 図書館では以上のように、皆さんの学習を支援するさまざまなしくみを整えています。ですから大いに利用し、在学中に知性・能力を高め、社会に巣立つよう、心より願っています。とはいえ、勉強だけでは味気ないもの。勉強の合間に一息ついて、リラックスすることも大切です。このように書くと、歴代の館長に怒られますが、新聞や雑誌の中のさまざまな小文も皆さんを待ち伏せています。そこで、ここからは、勉強の合間のちょっとした楽しみについて書きましょう。3階に下りてすぐの場所に新着雑誌コーナーがあります。
 たとえば、『図書』という雑誌。これは岩波書店の月刊誌です。いま、作家の池澤夏樹さんの「詩のなぐさめ」を連載中で、古今東西の詩歌を織りまぜたエッセイを楽しめます。2015年1月号は「詩人の中のいちばんの悪党」でした。2013年11月までは、詩人の伊藤比呂美さんが連載しており、こちらは『木霊草霊』という本になりました。その中の「クズさん」、秋の七草の一つクズを題材にしたエッセイがおもしろい。クズはシロツメクサと同じくマメ科の多年草ですが、夏ともなれば、つるを伸ばしてダイナミックに成長します。静岡キャンパスでも野球場近くで怪しく蔓延しているのを見かけます。この「クズさん」を読むと、そんなクズに見立てて詠まれた万葉集の歌、いまと変わらぬ恋愛模様の一端を知ることができます。
 息抜きの読書の良いところは、読んだそばから忘れること。とはいえ、長く記憶に残るものもあります。その一つが、大江健三郎さんの連載「親密な手紙」の中の「ノリウツギの花」(2011年8月号)。著者の生家は、和紙の原料(ミツマタ)を精製し、造幣局に納めていました。等外品は京都の製紙店に買ってもらい、お歳暮にノリウツギの糊を煮て(または乾かした樹皮を)送っていたそうです。和紙づくりで使うのですね。ノリウツギはアジサイに似た低木で林内に自生しますが、秋になると葉を落とし、どこに生えているか分からなくなります。そこで地図をこしらえ、株の位置に丸印を付けておくのが、著者の役目だったそうです。このくだりが、私の記憶に残っています。実はこの小文は、東日本大震災の光景を郷里の風景に重ねたもので、(エドワード・サイードが使った)dispossessedという言葉で終わります。記憶の風景の尊さを強く感じます。
 たとえば、こんなふうに勉強の合間にさまざまな本・雑誌、新聞を読んで一息ついてください。そしてリフレッシュしたら、また勉学に励んでください。

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