年度末が近付くと、出版社や書店などから多くの出版物の案内が大学教員のもとに届きます。各年度の個人研究費に残額があれば、本を買いませんかという勧誘です。一昔前でしたら、そんな折に欲しかった本を購入するということもありましたが、最近は個人研究費に余裕がなく、なかなかそういう機会を得ることもできません。
そんな折、県内某大学の教員と交わした会話。会話の相手も私と同じ日本美術史の研究者です。
「○○さんから『△△』という本を買いませんかという話があったけど、18万円もするし、研究費でも個人でもとても買えないよね。県内にある重要な作品が収録されている本なのに」
「私も買えなかったけど、大学の図書館にはお願いして入れてもらったよ。この地域に1部あればいいじゃない。うちの図書館に見に来ればいいわよ」
大学図書館が学生、教職員の教育研究のため、一般の図書館では置いていないような専門書、研究書などを配置する必要があるのは当然です。これらの多くが高額であるのに加え、専門的な電子ジャーナルや電子書籍などの配置も求められるようになり、資料収集費が高騰する一方、多くの大学図書館の財政状況は必ずしも豊かとはいえません。
このような中求められるのは、大学図書館相互、あるいは大学図書館と一般図書館間の資料提供サービスにおける連携ではないでしょうか。もちろんこれまでも、資料の相互貸借や資料の複製取り寄せサービスなどの様々な形で、図書館相互の連携は図られています。しかしそれだけではなく、地域内の図書館にはほとんど配置されていないような高額な専門書などがどの図書館にあるのかという情報、それらに関するレファレンス情報や閲覧方法に関する情報なども共有化できないものでしょうか。OPACなどのシステム整備が進む昨今において、それは取り組みやすい図書館間連携のかたちではないでしょうか。都市部においては高額な専門書などを配置する図書館も多いと思いますが、地方では、そのような本そのものの存在が貴重であり、それを多くの人々にとって活用しやすい状態にすることが、その地方の知的水準の向上に繋がるのではないかと思います。
もう一つ、昨今多くの大学図書館でラーニングコモンズを設置し、学生などのアクティブラーニングを促進する動きが加速しています。コモンズの利用方法は様々だと思いますが、多くは学生と教員、学生相互による小規模授業やゼミなど、学内者による学習の場として活用されているのではないでしょうか。
しかし、折角の会話ができる図書館内スペース、学内者だけの活用ではもったいないようにも思います。最近大学の地域連携の一環として、学外者の利用を認める大学図書館も増えています。学外利用者には、資料の閲覧などだけではなく、コモンズを活用した地域連携イベント参加などを呼びかけることもできるのではないでしょうか。
大学図書館が学内の学生教職員のためのものであることはいうまでもありません。しかし図書館間の連携や地域の人々との連携などにより、地域の知的水準の維持向上のために一定の役割を果たすことも今後の課題ではないかと考えます。
(静岡大学附属図書館長 教授 専門分野 : 日本美術史・博物館学)